ロシアの資本主義化考
ロシアはどのようにして資本主義化したのだろうか。
・ガイダルとチュバイスによる「ショック療法」の実施
価格自由化・・・1992年に前年比2510%ものハイパーインフレ。GDP、前年比
マイナス14.5%
これにより、年金生活者は「消滅」(たとえば月25万1千円の受給の場合、ハイパーインフレ前でいえば1万円の価値になる)し、預金者もその資産価値は25分の1になってしまった。それまでの社会的な秩序の崩壊である。
・「バウチャー方式」による民営化
これは国民1人1人に株式を購入できる小切手であるバウチャーを交付するもの。しかし、現実には1人に与えられたバウチャーで株式を購入することができず、しかもすぐには国営企業の株式公開は行われなかった。結果として、金融機関などがバウチャーを買いたたき、それをもとに国有企業を自分のものにしていった。
(バウチャーを利用した少数の人々への国有財産の私物化がバウチャーによる民営化の実態である。注意すべきはソ連時代、ソ連経済は巨大な規模のものであったという点である。とくに50年代は世界2位であった。ロシアになっても豊富な一次資源大国であるという事実には変わりはなく、したがってそれらの国有企業をいわば濡れ手に泡で手にした人々は、一躍億万長者となった。)
・1994年 デノミの実施
・1995年 株式担保型民営化
国営企業が株式を担保にして金融機関から融資を受けられるようにした。これはロシア財政が危機的状況に達していたからである。
この過程で、金融機関は株式を事実上、手に入れ(国営企業は借金を返せる状況ではなかった)、事実上、自分のものにしていった。この過程でさらに巨万の富を手にする少数の者が出てきた。いわゆる「オリガルヒ」)
・1996年 エリツィン再選
「オリガルヒ」(ベレゾフスキー、グシンスキーなど)、「セミヤー」の側近集団
・1998年 ロシア財政危機
IMFに支援を要請
これはヘッジファンドLTCMを破たんに導き、NY連銀のガイトナーを中心にその救済策が講じられた(そうでないとメルトダウン的危機が世界を襲う恐れがあったのである)。
この頃、企業間取引においてルーブルが使用されなくなるという事態が生じている。
・1999年8月に プーチン首相となる。
12月 プーチン大統領になる。
一次資源価格の高騰により、ロシア経済、復活を遂げる。
敵対するオリガルヒにたいする徹底的な弾圧開始。
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この動きをどう評価するのかという問題
・社会主義システム(市場がなく、本来の意味での企業が存在しない国有企業システムの計画経済)から資本主義システムへの移行はどのようにしてなされたのか
・「バウチャー」方式・・・問題は、1つの企業の民営化ではなく、体制全体を覆う国有企業の民営化であるという点である。特定の人物に国営企業を渡すことはさすがに民営化のやり方としてはその恣意性が問われるであろう。バウチャー方式だと、したたかに計算されていればいるほど、結果的に特定の人物(高級官僚とか企業経営感覚にたけた人物、あるいは政治家)に支配権がわたるようにすることが可能になることであろう(しかしみかけは、完全平等であった。子供を含め、一人1枚のバウチャーが支給されたのである)。
「バウチャー」方式も一種の設計である。(例えば)1000枚のバウチャーがないと株式が買えない(1株を高く設定すればいい)ようにすれば、それだけで多くの人々は株の購入をあきらめるだろう。そしてバウチャーを購入する組織をつくる。明日にでも現金がほしい人々はそこに売却する。しかも大幅にディスカウントされた価格で。
こうした仕組まれた計画が「バウチャー」にはあったことであろう。
・「株式担保型」民営化
株式を担保にして資金を融通した(国営企業は国の財政難のため資金調達が困難になっていた)金融機関は、結局、その企業を自分の傘下におくことができた。借りた資金を返すことなどできない相談だったからである。結局、担保の株式は取り上げられたわけである。
これら2つの方法で、国営システム(社会主義システム)は民営システム(資本主義システム)へと劇的な転換をみせた。
こうした動きは、市場での個人企業による自由な取引という資本主義のイメージ(それ自体が古い像であるが)とは、著しく異なるものである。いわば国有財産を自己のものにする絶好の機会ととらえる少数の人々による施策によって、それが自己実現する・・・そのようなイメージである。
市場での自由な取引が実現しなかったわけではない。しかし、それは移行過程や、その後のロシア経済の特質を理解するうえでどこまでの重要性をもつのかは、また別の問題である。
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・ではこのようにして成立した資本主義ロシアをアメリカの資本主義と比べてみるとき、どのような評価がなされるのであろうか。
格差・・・アメリカも極度の格差社会が進行しており、ミドル・クラスの没落がよく問題にされている。
システム・・・金融的操作による富の収奪という現象は、上記のロシアでは露骨であったが、アメリカでもじつは露骨である。ヘッジ・ファンドによる「証券化商品」の「創造」による行為がそれである