2013年8月24日土曜日

米英国際通貨体制交渉 - 1943.10.12

米英国際通貨体制交渉 - 1943.10.12
Anglo-American Draft Statement of Principles

これらの交渉を通じてのケインズのスタンスをどう理解すればいいのか、というのはそれ自体非常に興味深い、そして非常に難しい問題である。
 というのは、彼はシステム立案者として、非常に国際主義的な案をまず立ち上げている(これは一次産品をめぐる国際在庫案コモドにおいても、また救済問題をめぐる立案においても明らかである)。もし彼が純粋に学者であり、そして大学から、あるいはメディアから自らの考えを主張していたのであれば、こうしたいわゆる理想的なかたちでの立案の視点から、国際政治経済の分野で展開されていったプロセスを大いに批判して論じたことであろう。
 だが、彼の立場はまさに国際体制の最前線に立ち、かつ大英帝国の利害を代表するものであり、そして交渉においてはアメリカ側との妥協を図りつつ、全体をまとめていかねばならない立場にあった。そこで、政治的スタンスが大きく彼の行動を規定し、本来の学者的、デザイナー的側面は大きく犠牲にされていくことになった。
 しかも一次産品問題では、イギリス国内の次元でいわば彼の立案は挫折したし、また救済問題では、ケインズ自らがイギリスの経済的苦境のなかで自らの案を放棄するにいたっていた。もともと、一次産品、救済問題、そして国際通貨体制問題は、戦後世界の構築においてケインズの脳裏にあって密接に関係するものとして構想されていたことを忘れてはならない(そしてこれらの点で、ハロッドやミードのはたした役割も忘れることがあってはならない)。
 こうして国際主義者ケインズと現実的政治交渉の代表者ケインズという2つの側面があることを、これらの問題を考察するさいには、考えていくことが必要である。つまり後者においては、具体的にケインズはどのようなかたちでの妥協を行っているのか(彼は、妥協しているというような文言はほとんど用いていないから、なおさらわれわれ研究者としては、冷徹な目が必要となってくるのである)。

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・1943.10.12
Anglo-American Draft Statement of Principles

Joint statementxperts of united and associated nations on the establishment of an international stabilisation fund

この表現からも分かるように、完全にホワイト案をベースにしたものとして提示されている。

ただ、イギリス側はこの立案にたいし、次のような自己のこれまでの立場、すなわち「ユニタスの貨幣化」を後ろの方で主張している。が、それはだれがみても付録的な扱いであり、もはやユニタスは死んでいると読むのが正常であろう。

イギリス側は本文の展開のまえに、つぎのような一句をはさんでいる。

The following draft is intended to set out

and illustrate certain principles. It is expressed in terms of a Fund which holds members' currencies. This form of expression has been used to meet the convenience of the United States Treasury and in no way commits the Britishe representatives to recommnet acceptance of such a form. pp.379-380

これは、アメリカ側からみると、イギリス側の顔も立ててやろう、というような感じだろうと思う。

後ろの方に次のような文章で始まるイギリス案が提案されている(が、これは焼け石に水、犬の遠吠えであることは間違いのないところで、実際、その後、ユニタスそのものが文案から消える運命をたどっているのである)。

The Draft Statement of Principles in terms of a monetised unitas

In order to express the substance of the Draft Statement of Principles in terms of monetised unitas, the following paragraphs should be substituted for those carrying the same number in the Draft discussed with the American group p.389

なお、「ユニタスの貨幣化」も当初は、ユニタスだけが国際通貨として基金で採用されるべしというものから、ドルやポンドなどで構成されるバスケットの中の一つとしてみられるものに、ケインズ自身も変わっている(後退している)という点も注意に入れておく必要がある。上記の変更も、そこに位置するものである。

・ケインズは10月の交渉の困難な状況 - 怒号が飛び交う委員会、ホワイトのなぞめいた行動、部下のベルンスタインの最後の最後での妨害行動などなどが展開し、この国際交渉はほとんど破裂しかけたのである。そうしてなか、間一髪で合意に至ったのだから、ケインズが心から上記のドラフトを喜んだのはよく分かる。
 しかしそれは、政策担当当事者ケインズの立場であって、国際システム構築者ケインズの立場ではない。後者にたつとき、ケインズは前者のケインズをかなり低く評価したものと思う。

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(メモ)資本取引の禁止、もしくは規制については、通常いわれているよりは
緩和されたものであると感じた。資本取引にたいしても基金、メンバー国がとるべき対策が講じられているからである。cf. 385